1. なぜ食品はECで売りづらいのか?

食品ECには、アパレルや家電とは異なる独自の難しさがあります。
それは、「食べてもらわないと価値が伝わらない」という点です。

写真やスペックで魅力が伝わる他のカテゴリと違い、食品は「味・香り・食感」といった“体験の質”で評価されます。
そのため、ユーザーが購入前に得られる情報だけでは商品の良さを十分に伝えきれず、心理的ハードルが高くなるのです。

この章では、食品ECが抱える課題をもう少し具体的に分解してみましょう。

1-1. “一口目”がないと始まらない

食品ECでは、まず一度食べてもらうことがすべての起点になります。

そのため、多くの成功事例では以下のような商品が入口として設計されています。

  • 少量・低価格のトライアル商品
  • 複数品目が試せるお試しセット
  • 訳あり商品など、お得感のある商品

「まだ知らない食品」を買ってもらうためには、心理的ハードルを極限まで下げる工夫が欠かせません。

1-2. 味・香り・食感…写真では伝わらない要素

食品は見た目が似ていても、中身のクオリティがまったく違うことがあります。
たとえば以下のようなギャップは、EC上では表現しづらいものになります。

  • 焼き芋:甘さや食感
  • コーヒー豆:香りや焙煎の深さ
  • 冷凍食品:レンジ加熱後のおいしさ

こうした要素は、実際に体験して初めて評価されます。

この「情報と体験のギャップ」が、購入のブレーキになりやすい点を理解しておく必要があります。


1-3. 生鮮/冷凍/レトルト/菓子で異なるハードル

食品カテゴリ内でも、商材によって“つまずきポイント”は大きく異なります。

  • 生鮮食品(野菜・果物)
  • 消費ペースが読めない
  • 保存方法で味が大きく変わる
  • 量が多いと「消費できない」という不満が発生
  • 冷凍食品
  • 冷凍庫の容量問題
  • 解凍後の仕上がりが想像できない
  • 送料が高くなりやすい
  • レトルト・缶詰
  • 常温で便利だが「どこでも買える」印象になりがち
  • 特別感をどう作るかが課題
  • 菓子・スイーツ
  • 消費期限、賞味期限による急な消費負荷
  • 甘さ、風味の好みが強く分かれる

これらの違いを無視して一律の販売戦略を採用すると、購買に至らない・リピートされないといった問題が発生しやすくなります。

2. 食品ECで欠かせない「入口」と「出口」の考え方

食品ECで安定した成果を出すには、商品を2つの役割で考えることが重要です。

  • 入口商品:新規が入りやすい商品
  • 主力商品:利益とLTVを作る商品

この2層構造で考えることが戦略の骨格になります。
この構造を意識しないと永遠に利益が出ない「薄利・消耗戦」に陥ってしまいます。

2-1. 入口商品の役割は「一度食べてもらうこと」

入口商品の目的はただひとつ。「とにかく一度食べてもらうこと」。

そのため、入口商品には以下のような特徴が求められます。

  • 少量・低価格で試しやすい
  • 送料込みなど、購入時のストレスが少ない
  • 訳あり・端材・シーズン品など「理由のある安さ」
  • レビューが集まりやすい設計

多くの食品ECでは、入口商品でレビューを集め → 主力商品へ引き上げるという流れが基本パターンになります

2-2. 利益とLTVを生む主力商品の役割

利益の大半は主力商品から生まれます。主力商品には、以下の要素が欠かせません。

  • 利幅のある価格・構成
  • まとめ買い・セット販売との相性
  • 定期購入につなげられる設計
  • リピーターが納得する体験価値

食品は利益率が決して高くないため、主力商品を設計しないと利益がでにくいという構造的課題があります。

3. 「また買いたい!」は1回目の感動で決まる

食品ECでは、初回体験がその後を大きく左右します。

一度満足すれば繰り返し買われますが、一度失敗すると、二度と選ばれないことも珍しくありません。

3-1.「もう買わない」につながる量・頻度・賞味期限の設計ミス

食品ECでよく起こる失敗が、「量と消費ペースのミスマッチ」です。

例としてよくあるのが

  • 野菜セットが多すぎて使い切れない
  • フルーツが一度に大量に届き、食べきれず傷む
  • 冷凍食品が冷凍庫に入りきらない
  • お菓子の賞味期限が短く、短期間で消費を迫られる

「困った」「扱いづらい」という体験は、そのまま「もう買わない」につながります。

3-2. レシピ同梱・食べ方ガイド・保存方法で“最後までおいしく”をデザインする

初回体験の満足度を高めるには、同梱物の設計が効果的です。

● レシピ同梱:調理の不安をなくす

● 食べ方ガイド:おすすめの体験を提示

● 保存方法の案内:最後まで美味しく食べ切れる安心感

3-3. 生活の中で使うイメージをユーザーに想起させる

ユーザーへの 利用シーンの提示も効果的です。

  • 忙しい平日の夜
    → 温めるだけで一品完成、帰宅後3分でごはん
  • 朝食・子どものごはん
    → 手軽に用意できて栄養バランスも安心
  • 手抜きだけど喜ばれるごはん
    → 冷凍牛丼やレトルトは“ラクなのに満足感がある”ストーリーが刺さる

利用シーンが具体的でユーザーが「自分の生活で使うイメージ」を持てると「自分ごと化」され、購入確率が大きく高まります。

4. レビューを集める仕組みづくり

食品ECにおいて、レビューと口コミは 売上を左右する“生命線” です。
理由はシンプルで、食品は「比較できない」「体験しないと分からない」商材だからです。

購入前に不安が残るユーザーにとって、他人の体験=判断材料になります。

4-1. なぜ食品ECはレビューが重要なのか

レビューの有無はCVRに直結します。それは以下のような要因があるためです。

  • 味・香り・量は実際に食べないと分からない
  • 好みの差(濃い/甘い/薄い等)が出やすい
  • 失敗の痛みが強い(口に合わなければ100%ロス)
  • 類似商材が多く、差別化が難しい

レビューの数・質・鮮度は、食品ECにおけるマーケティング資産です。

レビューが多い商品ほど、広告も効きやすく、購入率も伸びます。

4-2. 初期レビューを集める“露出強化”戦略

食品ECの初期段階では、意図的にレビューを集める施策が必要です。

よくある成功パターンは、次のような流れです。

  • “理由のある安さ”でトライアル商品を用意
  • SNSやメルマガなどで広く露出
  • 購入後にレビュー投稿を丁寧に依頼
  • 初期レビューをもとに広告を強化

特に食品の場合、最初の50件・100件のレビューがその後のCVR(購入率)を劇的に底上げします。

4-3. リピーターを本商品に引き上げよう

レビューで高評価を得たあと、本商品にスムーズに引き上げる必要があります。

  • 同梱チラシで「本商品はこちら」を明示
  • 次回使えるクーポンを初回に同封
  • レビュー投稿で割引特典を付与
  • 定期便・セット商品の提案(冷凍や常温系が相性◎)

“美味しかった”という熱量が残っているうちに、次のステップを提示することがカギです。

食品の場合、 “一度好きになったら繰り返し買う”という習慣性が強いため、この導線設計がLTV(顧客生涯価値)を大きく向上させます。

5. 商材別に変わる「売り方」と訴求ポイント

「食品」という括りの中でも、商材の違いに合わせて売り方を変える必要があります。

一律の訴求では通用しないため、それぞれの特性を把握した設計が重要です。

5-1. 生鮮食品:消費ペースと保存設計がすべて

失敗のほとんどが、“ユーザーの生活ペースと合わない”ことで発生します。

  • 量が多すぎる → 消費できずに破棄
  • 保存法が分からない → 鮮度が落ちる
  • 食べ頃が分からない → 味のピークを逃す

このような失敗を防ぐには

  • 家庭人数に合わせた量設計
  • 保存方法の案内を同梱
  • 食べ頃や消費タイミングを明示

“もらって困らない”設計こそ、リピートにつながる鍵です。

5-2. レトルト・冷凍:ラインナップの幅と「いつでも食べられる」を売る

レトルト・冷凍は、再現性の高さと保存性の強みから、ECとの相性が非常に良いカテゴリです。

  • いつでも食べられる安心感
  • 調理が簡単で失敗しにくい
  • 常備しておくと便利

フロント商品でトライアル → 気に入ったらセットや定期便へ。
階段設計がしやすく、LTVも伸ばしやすいジャンルです。

5-3. 菓子・スイーツ:賞味期限と“ついで買い”をしてもらう仕掛け

見た目やストーリーに惹かれやすい一方、 賞味期限が短い/甘さの好みが分かれる という難しさを持っています。

  • 甘さや風味の好みに個人差がある
  • 単価が安く利益が出づらい
  • 賞味期限が短く、消費負荷が大きい

そのため、以下のような設計が有効です:

  • 少量サイズで試しやすい導線
  • 季節限定・詰め合わせで“ついで買い”を狙う
  • ギフト需要への対応(パッケージ、カード同梱)

感性に訴える商品だからこそ、導線設計で差が出ます。

5-4. 飲料・ワイン:ストーリーで選ばれる理由を伝える

飲料、特にワイン・コーヒーなどは、 「説明コンテンツの質」でCVRが大きく変わるジャンル です。

  • 見た目が似ており、違いが伝わりにくい
  • 香り・風味のニュアンスが豊富
  • 好みに左右されやすいジャンル

売り方のポイントは:

  • 味や香りの違いを言語化する
  • 生産者や背景のストーリーを丁寧に語る
  • セット商品で“飲み比べ”を提案
  • 動画やライブ配信との相性が良い

体験が想像できるようなコンテンツ設計が鍵となります。

6. コンテンツ設計から逆算する広告戦略

食品ECは、いきなり広告を打っても売れません。
なぜなら、食品は「比較できず」「体験しないと魅力が伝わらない」からです。
必要なのは、広告の前に、買う理由をしっかり作ることです。

6-1. 「広告 → コンテンツ」ではなく「コンテンツ → 広告」で考える

多くのEC事業者が、「広告を先に考える」発想に陥りがちです。
しかし食品では広告の前に、以下のようなコンテンツが整っていることが大切です。

  • どんな体験価値があるか
  • どんな生活シーンに役立つか
  • どう食べるのが一番おいしいのか
  • どんなレビューが集まっているか

この“購入の根拠”を先にコンテンツで用意しておくことで、広告の訴求力が高まります。

6-2. 「美味しいです」では刺さらない!? セットで訴求すべき価値

食品ECでありがちな失敗が、「美味しい」だけをアピールしてしまうこと。
今の時代、美味しいのは“前提”であり、差別化にはなりません。

ユーザーが求めているのは

  • 「なぜ美味しいのか」という背景(素材・製法など)
  • 「どんなメリットがあるか」という生活面での価値

例:

  • 「1週間分のレシピ付きで、届いてすぐ使える」
  • 「子育て家庭に嬉しい、3分で出せる栄養バランスごはん」

“味”ではなく、“暮らしがどうラクになるか”の訴求が響きます。

6-3. 「コンテンツ」と「広告」で一貫したメッセージを伝える

強い広告は、強いコンテンツから生まれます。
広告とコンテンツを対応させることで、伝わりやすく、買われやすくなります。

コンテンツ要素 広告メッセージの例
レシピ同梱 「届いたその日から迷わず使える」
保存方法ガイド 「最後まで美味しく食べ切れる安心」
お得なトライアルセット 「初回限定でまずはお試し」
利用シーン提案 「忙しい夜に“あと一品”が3分で」
レビュー数の多さ 「満足度4.7、累計○○レビュー突破」

広告とコンテンツを対応させることで、伝わりやすく、買われやすくなります。

7. まとめ:食品ECで選ばれ続けるブランドになるために

食品ECは難しいと言われがちですが、正しく設計すればLTVの高いビジネスモデルになります。

重要なのは、「入口」から「リピート」までの線を切らさず繋ぐことです。

7-1.入口(初回購入)と出口(主力商品)がつながるように設計しよう

① トライアル(訳あり・ふるさと納税など)
② 感動の初回体験(量・保存・レシピなど)

③ 高評価レビュー投稿

④ 本商品へスムーズな引き上げ

⑤ 定期購入・リピート購入でLTV向上

この流れが滑らかに機能するブランドは、広告効率もよく、継続的に成長しやすい構造になります。

7-2. 成功する食品ECに共通する4つの条件

  1. 初回体験の満足度が高い
     レシピ・保存方法・量設計などが最適化されている
  2. レビューが集まりやすい仕掛けがある
     訳あり・お試し・レビュー依頼導線など
  3. 本商品へのステップが明確に設計されている
     同梱チラシ、クーポン、定期便提案など
  4. リピート後の満足度も設計されている
     品質の安定性、ラインナップの拡張、継続的なコンテンツ提案

7-3. ゴールは“また食べたい”と思ってもらうこと

最終的に食品ECが目指すべき姿は、
「一度買ってくれた人が、自然と2回目・3回目を買いたくなる状態」です。

そのためには

  • “買いやすい入口”を設計する(フロント商品)
  • “感動の初回体験”を届ける(同梱物、保存設計)
  • “スムーズなステップアップ”を用意する(レビュー・本商品・定期便)

この3つを繋ぐことが、
「美味しいだけじゃない、選ばれ続ける食品ECブランド」への第一歩です。

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